グローバル人材に必要なのは英語力だけじゃない? 定義や育成方法

グローバル人材に必要なのは英語力だけじゃない? 定義や育成方法

バブル崩壊以降、日本経済は低迷を続け、少子高齢化などの影響で未来も決して明るいものとはいえません。この閉塞した状況を打開するために、海外市場への参入を検討している企業は多いでしょう。その際、重要になるのがグローバル人材の育成です。しかし、グローバル人材とはそもそもどのような人材を指すのでしょうか。本記事では、グローバル人材の育成に力を入れたい研修担当者の方へ、グローバル人材の定義や育成方法について解説します。

グローバル人材の定義

グローバル人材の育成は多くの企業にとって課題となっています。しかし、そもそも育成すべき「グローバル人材」とは、どのような人物を指すのでしょうか。高い英語能力を条件に掲げる企業は数多くあるかもしれません。しかし、「英語ができる人材=グローバル人材」だとしたら、英語圏の人々はみんなグローバル人材になってしまいます。グローバル人材には、そのほかにも必要な要素があるはずです。

参考までに、総務省および文部科学省によるグローバル人材の定義を見てみましょう。

総務省では、「日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、i)豊かな語学力・コミュニケーション能力、ii)主体性・積極性、iii)異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できる人材」としています。
(引用元: https://www.soumu.go.jp/main_content/000496469.pdf )

グローバル人材育成の推進に関する政策評価書

他方で、文部科学省内に設置された「産学連携によるグローバル人材育成推進会議」の資料では、グローバル人材の概念に含まれる要素として、以下の3項目を挙げています。

要素I:語学力・コミュニケーション能力
要素II:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素III:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティ
(引用元:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/46/siryo/__icsFiles/afieldfile/2011/08/09/1309212_07_1.pdf)

グローバル人材育成推進会議 中間まとめ

いずれの定義においても、グローバル人材には語学力にプラスしてさまざまな資質が求められていることがわかります。もちろん、自社の求めるグローバル人材の資質が、総務省や文部科学省の定義通りである必要はありません。自社にグローバル人材が必要な理由を整理し、自社のビジネス課題を解決するには、語学力以外にどのような能力が必要なのかを考えれば、自社の求めるグローバル人材の資質が自ずと見えてくるのではないでしょうか。

グローバル人材に求められる能力とは?

総務省や文部科学省の資料にも示されているように、グローバル人材には語学力以外にもさまざまな能力が必要です。次に、総務省、文部科学省、WHOが掲げるモデルを参考にしながら、グローバル人材に求められる能力について整理します。

グローバル人材育成推進会議 中間まとめ

グローバル人材育成の推進に関する政策評価書

Enhanced WHO global competency model

Enhanced WHO global competency model

手段としての語学力(英語力)

グローバル人材に求められる第一の能力は語学力です。会話にせよ、文章でのやり取りにせよ、グローバルにビジネスを展開するには相手と正確に意思疎通できるだけの語学力が欠かせません。優先的に習得すべき言語は、やはり国際共通語である英語が望ましいでしょう。総務省でも、グローバル人材育成の成果指標のひとつとして英語力の向上を設定しています。

もちろん、英語力といってもレベルはさまざまです。海外旅行会話レベルや日常生活レベルでは、専門性の高い言葉が飛び交うビジネス交渉の場では十分とはいえません。企業の海外事業を担うグローバル人材には、できれば二者間あるいは多数者間の折衝や交渉を行えるレベルの英語力が望まれます。英語力を評価する指標としては、TOEICやTOEFL、IELTSといった英語資格試験や、外国語の運用能力を測る国際標準であるCEFRが挙げられます。また、企業が導入するビジネスオンライン英会話ツールの機能として備わっている習熟度テストなどを活用するのも有効でしょう。
 


ただし、グローバル人材の育成担当者は、語学力が企業にとってビジネス上のニーズを満たすための手段にすぎないことも忘れてはいけません。企業が必要としているのはテストで高い点を取れる社員ではなく、グローバルなビジネスの舞台で継続的に活躍できる社員です。このことを履き違えると、いつの間にかテストで高得点を取ることが目的になってしまい、何が本当の目的なのかを見失ってしまう恐れがあります。

コミュニケーション能力

語学力と同時に、コミュニケーション能力の高さもグローバル人材に強く求められる資質です。語学力とコミュニケーション能力はイコールではありません。適切な意思疎通のために共通言語を習得することは不可欠ですが、同じ日本語話者同士でもコミュニケーション能力には個人差があります。語学力(英語力)があるからといって、コミュニケーション能力が高いと考えるのは間違いです。

公益財団法人日本生産性本部によるフォーラム報告書「グローバル化の中でのコミュニケーション能力」では、コミュニケーション力として以下の点を挙げています。

・単なる語学力とは異なる
・自分のアイデアや考えを主張する「発言力」や「情報発信力」
・異なる価値観を前提として、他人の意見を聞き、尊重する力
(参照元:https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/R28attached.pdf 6ページ)

また、WHOが定義したグローバルコンピテンシーモデルでは、必要なコミュニケーション能力として「自己表現力」「聞く力」「文章力」「情報共有力」が挙げられています。コンピテンシーとは、成果を上げる社員に共通して見られる能力や行動特性のことです。相手にあわせたプレゼンテーション方法の使い分けや、意思決定時の他者意見の考慮、文化差を踏まえた非言語的コミュニケーションの採用などが、重要なコミュニケーション能力として挙げられています。
(参照元:https://cdn.who.int/media/docs/default-source/who-careers/who-enhanced-competence.pdf 6ページ)

以上を踏まえると、英語などの外国語を話せるだけでなく、自らの考えを主体的に発信する力や、逆に他者の意見を聞き入れて自身の思考を深める力こそが、コミュニケーション能力として求められるものです。

主体性・積極性・チャレンジ精神

主体性・積極性・チャレンジ精神といった精神的な要素もグローバル人材に求められる資質です。経済産業省の「未来人材ビジョン」では、海外留学する日本人学生の数が減少していることや、海外勤務を望まない新入社員が増えていることが示されています。つまり、世界的には経済のグローバル化が進むのに逆行して、日本では内向き志向の若者が増えている事実があります。
(参照:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf)

グローバル人材として活躍するには、人種・言語・文化など、さまざまな要素が異なる国や地域、組織の中に飛び込んでいかなければなりません。当然、失敗や挫折も多く経験するでしょう。だからこそ、グローバル人材には語学力や実務的な能力だけでなく、困難な状況下でも挫けずに前進するチャレンジ精神や、変化をもたらす行動力などが強く求められます。

変化や状況に適応できる柔軟性

性格的な特性としては、変化や状況に適応できる柔軟性も重要な要素です。たとえ異文化に飛び込んでいく勇気があっても、飛び込んだ先でひたすら自分の主張を通そうとするようではグローバルに成功を収めることは難しいでしょう。海外の取引先はもちろん、現地採用の社員も、日本とは異なる文化的・社会的背景で育ってきた人たちであることを理解し、尊重しなければいい関係を築くことはできません。

したがってグローバル人材には、異なる考え方や新しい手法を積極的に取り入れるオープンな姿勢が求められます。グローバル企業として成功するために必要な組織的変化を上司に提案する力や、逆に部下から聞き入れる力も必要です。変化の激しいVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity:先行きが不透明であるという意味)の時代にあって、高い柔軟性はビジネスリーダー全般に重要な資質であると考えられます。

チームを成功に導くリーダーシップ


グローバル人材には強いリーダーシップも必要です。多種多様なバックボーンや価値観を持った人材がチームとして活躍できれば、グローバル企業としての躍進にもつながるでしょう。ただ、そうした人材を束ね、導いていくのは容易ではありません。

グローバルリーダーシップの基本的条件について述べられた論文では、LMX(リーダーとメンバー間の継続した交換関係)の役割としては、以下の3つが挙げられています。

・職場の対話を軸にしたコミュニケーションにより、職場の相互理解を深めて信頼関係を確立すること
・職場の利害対立の解決、つまり、「ウイン・ウイン型」の職場の運営を進めること
・メンバーを信頼して仕事を負託し、その仕事を通じて能力を開発する長期的な人材育成策を推進すること
(引用:https://core.ac.uk/download/pdf/229764542.pdf 578ページ)

グローバルリーダーシップの基本的条件── Leader-Member Exchange(LMX)の役割に関する1研究──

コミュニケーションによる信頼関係の確立に加え、文化的背景や価値観の差異によって生じる職場内対立の解決、そして仕事を通じた長期的な人材の育成が、グローバル人材に求められるリーダーシップの内容といえるでしょう。

異文化への理解や尊重の姿勢

異文化を理解し、尊重する姿勢も欠かせない資質です。これまで触れてきたように、グローバルに事業を展開していく上では、個性や文化の異なる人々と関わることになります。

日本ではめずらしい宗教的な風習などを許容することが求められることもあるかもしれません。実際、最近ではイスラム教徒の社員に配慮して、社内に簡易的な礼拝室を用意し、勤務時間中の礼拝を許可する企業も現れています。

異文化を尊重する一方で、日本人や日本企業としてのアイデンティティを確立し、維持することも重要です。例えば組織的な規律正しさなどは、日本人の美徳としてよく挙げられます。企業としての成長や成功につながるこうした美点は、組織がグローバル化する過程においても持ち続ける努力が必要です。何を維持し、何を受け入れていくべきなのか、優れたバランス感覚がグローバル人材には求められます。

グローバル人材の育成方法


グローバル人材の定義を満たすには非常に高いスペックが求められます。総務省が海外進出企業を対象に行った調査によれば、グローバル人材が「不足している」または「どちらかといえば不足している」と回答した企業は約7割にも及びます。海外事業を展開する上での課題として「外国語の能力不足による営業トラブル」を挙げる企業が多いことから、グローバル人材としての前提能力である外国語スキルの高い人材自体、まだ不足していることが窺えます。
(参照元:https://www.soumu.go.jp/main_content/000496484.pdf)

では、グローバル人材を効果的に育成するにはどうしたらいいのでしょうか。次に、グローバル人材の育成方法について解説します。

レベル・役職別の研修

第一に挙げられるのは、社員の語学レベルやグローバル化に対する意識レベル、あるいは役職レベルに応じた研修を実施することです。

各社員の語学レベルはまちまちです。英語が比較的得意な人と苦手な人に同じ内容の研修を受けさせても、学習効率が悪くなるばかりです。社員のレベルに応じて研修内容を設定した方が効率的でしょう。

また、グローバル企業になるためには全社員の語学レベル・意識レベルの向上が重要ですが、かといって国内勤務の社員と海外に赴任予定の社員の教育内容を同一にするのは不合理です。基本的な異文化理解や語学力の向上は全社員に課す一方で、グローバルビジネス研修や海外研修などの重点的な研修は選抜者に対して行った方がよいでしょう。

研修内容は役職でも変える必要があります。一般社員とリーダー的な社員とでは、求められるビジネススキルが大きく異なります。一般社員は語学能力や一般的なビジネス知識や対人能力などを習得していれば一通りのことはこなせますが、リーダーポジションの社員であれば上記の能力に加え、組織をまとめるマネジメント能力や経営管理の知識、海外事業の立案能力などが必要です。研修内容も、どの役職の人が受けるかでカスタマイズしなければなりません。

海外支社への派遣や現地研修

海外に支社がある場合は、社員を一定期間、現地に出張させたり、派遣したりすることも効果的です。語学にしても、グローバルな感覚にしても、実践に勝るものはありません。現地では会社でも道端でもテレビでも耳にする言葉、目にする文字はすべて現地の言語です。四六時中そうした環境に身を置けば、日本で決まった時間だけ勉強するよりも遥かに早く外国語を習得できます。

現地の商習慣や生活習慣への理解なども、実際に体感してみなければわからないことが多々あります。実際にチャレンジしてみることを通して、グローバル人材として自分がどのように成長していくべきなのかを社員に意識させ、海外市場での経験値やモチベーションを向上させることは重要です。

グローバル意識向上を目指す取組みの策定

グローバル人材を輩出しやすい企業風土を醸成するには、グローバル意識向上への取組みが必要です。例えば、国際経験のある人材の採用を強化して社内全体の意識変革を試みたり、社内外を問わずセミナーやワークショップへの積極的な参加を奨励したりすることは、意識向上の取組みの一例として挙げられます。

社内公用語を英語にすることも大きなインパクトがあります。ただし、社員の英語レベルが一定以上確保できていない段階で行うと、ミーティングの質が低下したり、一部の社員が変化についていけなくなったりする恐れがあります。導入のタイミングを計り、社員に対するケアには念入りな準備が必要です。

カルチャー

そのほかには、社員を海外派遣するトレーニー制度の導入や、実際に海外支社で勤務する社員を登壇者として招いてのワークショップの開催も効果的です。制度として海外派遣を確立していることでグローバル意識の高い新入社員が集まりやすくなったり、海外勤務者の実感がこもった言葉を聞くことで、海外勤務を現実的に考える社員が多くなったりする効果が期待できます。

グローバル意識の向上

グローバル人材とは、語学力(英語力)を基盤に、コミュニケーション能力やリーダーシップといった海外事業で必要となるビジネススキルを備えた人材を指します。本記事で強調してきたように、英語力だけではグローバル人材として十分ではありません。しかし、コミュニケーション手段として語学力が必要不可欠であることもたしかです。グローバル人材の育成に取り組むにあたっては、オンライン英会話「HanasoBiz」の活用をおすすめします。


 

この記事を書いた人
オンライン英会話HanasoBizスタッフ
2019年11月1日にサービスを開始した、ビジネス特化型のオンライン英会話
▼サービスサイトはこちら
https://biz.hanaso.jp/

個人向けオンライン英会話hanasoで長年培ってきたノウハウを法人向け教材コンテンツに展開し、ビジネスの場で即活用ができる英会話学習提供。
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